CASE6ウイルス感染

【概要】職員が利用する業務用の端末でメールの添付ファイルを開封したことにより,コンピュータウイルスに感染した.流出した疑いがあるのは,職員のメールボックス内に保存されているメールアドレスなど.また,職員のメールボックス内に保存されていたメールのうち,メールの本文や添付ファイルには,患者などの個人情報が含まれるものもあった.すでに,この職員をかたったスパム(迷惑)メールが届いていることも報告されており,不審なメールを開かないよう呼び掛けた.

学びのポイント(ネット社会が生み出したコンピュータウイルスによる脅威

 医療機関での個人情報の取り扱い事故のなかで,コンピュータウイルスを代表とするマルウェア(悪意のあるプログラム)が原因となったものは,それほど多くありません(品川 2014).しかし,マルウェアを原因とする事故は,ネット上への個人情報流出や,情報システムへの不正アクセスなど,大きな被害に発展する可能性があります

 皆さんは,Winnyによる情報漏えい事故をご存知でしょうか.この事故は,不特定多数のユーザー間でファイルを共有できるソフトウェアであるWinnyを介して入手したファイルを開くことでウイルス感染し,パソコンに保存していた個人情報や機密情報が流出したというものです.2000年代に個人だけでなく多くの公的機関や民間企業で発生し,社会的な問題となりました.医療機関も例外ではなく,医療者のPCがWinnyを介してウイルス感染することで患者情報を漏えいさせた事案が発生しています(品川 2018).2010年以降は,ファイル共有ソフトの危険性に対する認識や技術的対策(ウイルス対策ソフトなど)により激減し,今となっては私たちの記憶からも消えつつあります.

 しかしながら,コンピュータウイルスは,形を変えて何度でも私たちを攻撃してきます.本事例は,看護師が起こしたものではありませんが,ウイルスへの感染はだれにでも起こりうるため,基本的な対策がとれるようになることが必要です.

問題点と事故防止のためのポイント

読む前に,まずは自分で本事例の問題点と,どうしたら防げたか考えてみてください.

【問題点】

見覚えのないメール,不自然なメールの添付ファイルを開いた

 メールの添付ファイルからの感染は,従来から存在する代表的な感染経路であるため,注意するユーザーも多いです.しかし,「まさかこのメールが!」と思うほど手口は巧妙化しています.

 たとえば,「差出人が自分の知っている人からのように見える」「自分が過去に送信したメールの返信のように見える」「添付ファイルがよく使われているソフト(たとえばWordやExcelなど)である」といった点です.

 では,一見問題なさそうなメールに対して,どのように対応すればよいでしょうか.それは,基本的なウイルス対策(後述のを参照)を知り,それを徹底することです.本事例の場合であれば,「身に覚えのないメールの添付ファイルは開かない」という基本的な対策をとることが感染を防ぐポイントとなります.また,受け取ったメールが,たとえ自分の知っている人からの返信メールに見えたとしても,メールの内容に不自然な点(たとえば,話題や文脈がおかしい)があれば,添付ファイルを安易に開いてはいけません.

【事故防止のためのポイント】

身に覚えのない(差出人が知っている人でも内容が不自然なもの)メールの添付ファイルは開かない

さらに学ぶ(コンピュータウイルスに感染しないために

さらに学びを深めてみましょう.

 メールからのウイルス感染を防ぐための基本的な対策について紹介しておきます.

●ウイルス対策ソフトの導入と,OSやアプリケーションは最新の状態にする

 いうまでもありませんが,パソコンへのウイルス対策ソフトの導入は必須であり,ウイルス定義ファイル(ウイルスの特徴が記録されているファイル)も,常に最新にしておく必要があります.また,OS(WindowsやMacOSなどの基本ソフトウェアのこと) やインストールしている各アプリケーションのアップデート通知は,放置せず最新の状態にしておくことが感染防止につながります.

身に覚えのない添付ファイルや本文中のURLを不用意に開かない

 本事例で紹介したように,不用意にメールの添付ファイルを開いてはいけません.また,添付ファイルだけでなく,本文中に記載されているURLについても同様です.記載されているURLにアクセスすることで,そのサイトに仕掛けられたウイルスに感染するおそれがあります.

本文や差出人に不自然な点が見られるメールには応答しない

 メールは,差出人の偽装ができるため,そこに表示されている情報が正しいとは限りません.また,送ったメールの返信のように書かれているウイルス付きメールもあります.そのため,たとえ差出人欄に知っている人の名前が表示されていたり,返信のように見えたりするメールでも安心はできません.やりとりに不自然な点が見られるメールについては,応答せず,添付されているファイルや本文中に記載されているURLを開いてはいけません.

よく知っているソフトウェアであっても不用意に開かない

 私たちがよく使うWordやExcelには,プログラムを組み込むことができます.そのため,ファイルを開くことでウイルス感染するおそれがあります.「WordやExcelのファイルだったら大丈夫」とは思わないようにしてください.なお,WordやExcelの場合,ファイルを開いた際,「セキュリティの警告」や「保護ビュー」というメッセージが表示される場合があります.開いたファイルが不審なものであれば,この段階で閉じれば感染はしません(「コンテンツの有効化」や「編集を有効にする」のボタンは決してクリックしない).

 コンピュータウイルスなどのネットワークに深く関係する事故は,個々のパソコンだけの問題にとどまらず,病院全体のパソコンやネットワーク,さらに電子カルテシステムなどの情報システムにも影響を及ぼす可能性があります.また,コンピュータウイルスは,日々新しいものが出現するため,いくらウイルス対策ソフトを導入していても,定義ファイルの配信が間に合わないこともあり,完全に防止することは難しいです.そのため,一人ひとりが,ここであげた基本的な対策を心がけることが重要となります.

【事例の出典元】

  • 品川 佳満, 伊東 朋子, 橋本 勇人:看護師が注意すべき患者の個人情報取り扱い 「気づかない」から「ドキッ」、そして「あたりまえ」になるために(第8回) コンピュータウイルスへの感染による情報漏えい,看護技術,66巻9号,981-983,2020.

【参考文献】

更新日:2022.9.1