CASE2(FAXの誤送信)

漏えいした情報】数名分の処方箋と患者情報提供書に記載されていた情報

漏えいまでの経緯】看護師が訪問診療患者の「処方箋」と「患者情報提供書」を薬局へFAXを送信する際,番号を誤り、無関係の個人宅へ誤送信してしまった.FAXを送信した日に,受信した個人宅からの連絡により誤送信が判明した.

漏えい発覚後】看護師は,これらのことを上司へ報告し,看護師が誤送信した個人宅を訪問し謝罪,印刷した用紙を回収した.後日,院長,事務長が訪問し謝罪を行った.

学びのポイント(従来から存在する「誤送信,誤交付」による個人情報の漏えい)

 近年,取り上げられる個人情報の取り扱いに関する事故は,USBメモリやハードディスクといったデジタル系媒体に保存された大量の情報漏えいに関するものが中心です.

しかし,個人情報の取り扱いに関する事故は,紙媒体を中心にした「誤送信,誤交付」といった従来から存在するものもあり,自らの注意不足などが原因で発生する “うっかり”タイプの代表的な事故パターンの1つです(品川 2018).

「誤送信,誤交付」の具体例なパターンをあげると以下のようなものがあります.

・FAXの誤送信

・書類(検査結果など)の誤送付・誤交付(伊東 2018)

・電子メールの誤送信

どれも今に始まったことでないことがお分かりいただけると思いますが,その分,個人情報の取り扱いが,おろそかになりやすいものです.

しかし,「誤送信,誤交付」による事故は,取り扱いに慎重になるべき,以下のような理由が存在します.

・内容が直接第三者の目にふれてしまう

・誤送信・誤交付したことに気づきにくい

「誤送信,誤交付」による事故は,USBメモリやPCが関係した事故と比べて,1度に漏えいする個人情報の量は比較的少ないです.しかし,「FAXを送る」,「書類を患者に渡す」などの業務も患者の大切な個人情報を取り扱っている場面であることを忘れないでほしいと思います.

問題点と事故防止のためのポイント

読む前に,まずは自分で本事例の問題点と,どうしたら防げたか考えてみてください.

【問題点】

 従来から存在する事故であるため,問題点やその対策もシンプルです.今回の事例では,FAX番号を間違えた直接的な原因は,わかりませんが,このようなミスは以下のようなことから発生する可能性があります.

・単純なFAX番号の押し間違い

・登録された短縮番号(アドレス帳)の押し間違い

・送信資料(紙)に記載したFAX番号の間違い

当然,このようなミスは,誰にでも起こり得ることなので,基本的には,送信者本人のみの確認だけでは不十分です.誤送信を起こさないためには,

・送信資料に記載している送信先の情報(FAX番号,宛名など)

・FAX機側で押したFAX番号や選択した短縮番号(アドレス帳)

について間違いがないか,ダブルチェックを行うことが必須となります.

 また,本事例では送信先が薬局であるため,あらかじめ短縮番号やアドレス帳に登録しておくことも誤送信を減らす一つの方法です(FAX機に登録する際のダブルチェックも忘れずに).さらに,FAX機には送信履歴が残るため,送信後に履歴をチェックすれば,誤送信にも気づくことができます.

 ただし,上記のようなチェックは,人や手間を要するので,誤送信を防止するような機能(FAX番号の2回入力,登録先以外の送信禁止など)をもったFAX 機を導入するという方法もあります.

【事故防止のためのポイント】

以下の2点について送信前のダブルチェックを行う

●送付状(紙)に記載されている送信先のFAX番号や宛名に間違いがないか

●FAX機に入力したFAX番号,選択した短縮番号(アドレス帳)に間違いがないか

さらに学ぶ(看護研究をする場合のデータの取り扱い)

さらに学びを深めてみましょう.

 近年,看護の質向上のために,積極的に看護研究に取り組む病院が多いです.看護研究のデータは,電子カルテのようにシステム上で厳しく管理されているデータとは異なり,データを生み出した研究者(看護師)自身が責任をもって管理しなければなりません.そのため,研究開始前にデータの管理方法(保管場所など)についてはルールを決めておくべきです.

 CASE1で紹介した事例のように看護研究に使うデータにおいて,はたしてデータ内に患者の氏名など個人の特定につながる情報を含める必要があったでしょうか.研究倫理の観点からいえば,ID番号を割り振るなどの方法により,研究者自身にも個人が特定できない形(匿名化)に加工すべきでです.

 医療機関で起きた個人情報の取り扱い事故において,研究データが含まれていたケースは少なくありません.研究データは,院外に持ち出すケースも多く,個人情報管理の“死角“になりやすいです.看護研究をする場合には,厳重なデータ保管と匿名化を行ってほしいと思います.

【事例の出典元】

  • 品川 佳満, 伊東 朋子, 橋本 勇人:看護師が注意すべき患者の個人情報取り扱い 「気づかない」から「ドキッ」、そして「あたりまえ」になるために(第4回) FAXの誤送信,看護技術,66巻4号,413-415,2020.

  • 品川 佳満, 伊東 朋子, 橋本 勇人:看護師が注意すべき患者の個人情報取り扱い 「気づかない」から「ドキッ」、そして「あたりまえ」になるために(第3回) 院内でのUSBメモリの紛失,看護技術,66巻3号,309-311,2020.

参考文献

更新日:2022.9.1