CASE3(院外への持ち出し:車上荒らしによる盗難

【紛失した情報】約40名分の患者の氏名、年齢、病名など

【 紛失までの経緯】病棟勤務の看護師が,日勤終了後,業務で使用する患者情報を記入した用紙をバッグに入れて車で持ち帰った.そのバッグを車の中に放置したところ,翌日の出勤までの間に何者かによって車の窓ガラスが割られ,バッグが盗まれた.

【 紛失発覚後】当該看護師が警察署に連絡,事情聴取を受けた後,病院の上司に報告を行った.対象となった患者に対しては,事実関係の連絡及び謝罪を行った.病院は,全職員に対して,個人情報が含まれた書類等についての院外持出厳禁を周知徹底した.

学びのポイント(問題の本質は事故の発端にあり

 本事例を読んで,「この事故の原因は?」と問われたら,皆さんはどう答えますか.多くの方は「車上荒らしによる盗難」と答えるのではないかと思います.

 本事例のような事故が発生した場合,ニュースや新聞には,「患者情報の盗難」や「車上荒らしより患者情報を紛失」といった見出しが躍ります.確かに見出しから判断すると「車上荒らしによる盗難」が事故原因のようにみえますが,はたしてそう考えてよいでしょうか.

 実は筆者らも,患者情報の取り扱いに関する事故の分析を始めた当時,原因の分類には頭を悩ませました.深く考えずに記事の見出に左右されることも多くありました.

 しかし,数多くの事故記事を分析していくうちに,事故が発生するまでの経緯を時間的な流れで整理すると,問題の本質となる事故原因が見えてくることに気づきました.

 たとえば,本事例を時間的な流れから整理すると次のようになります.

①患者情報の院外への持ち出し

②車に放置

③車上荒らしによる盗難

 これらは,どれも事故の原因といえるものです.しかし,事故防止の観点から考えた場合,もっとも重要となるポイントは,事故の発端となる行動です.本事例の場合は,「①患者情報の院外への持ち出し」であり,そこに問題の本質があります.

 決して,「車上荒らしに遭った」という他人事の事故とは思わないでください.

問題点と事故防止のためのポイント

読む前に,まずは自分で本事例の問題点と,どうしたら防げたか考えてみてください.

【問題点】

●個人情報の無断持ち出し

 事故発覚後の「個人情報の院外持出厳禁を周知徹底する」という病院側の対応をみると,看護師が無断で書類を持ち出したことが伺えます.

 不適切な持ち出しは,看護師が起こした事故原因の約3割をも占めます(品川 2018).「仕事の続きを,ちょっと家で」「少しの間だったら,大丈夫だろう」といった考えは,個人情報の保護に対する認識が甘いと言わざるを得ません.

 病院で決められたルールを守ることは当然のことながら,原則的には,患者情報や業務に関わる情報を院外に持ち出すべきではありません.


●個人情報の車内放置

 本事例における事の本質は,前述した無断持ち出してあることに違いはありませんが,やむを得ず個人情報の持ち出しが必要性であった場合のことを考えてみます.

 持ち出しの許可を得るとともに,情報の保護対策(匿名化やパスワードによる保護など)や,持ち出した後に存在する脅威(後述の「さらに学ぶ」参照)を知り,それを回避する行動をとることが必要です.

 本事例の場合は,電子媒体に保存された個人情報ではないため,パスワードによる保護はできません.問題となるのは,個人情報を含む媒体を車内に放置したことです.

 車内は,院外で起きた漏えい事故のなかで,もっとも多い事故発生場所です(品川 2014).少しの時間であってもバッグは,乗せたままにせず,持ち出すことを習慣づけてください.

【事故防止のためのポイント】

●患者情報を無断で院外に持ち出さない

●患者情報を車内に放置しない

さらに学ぶ(持ち出し後に存在する脅威

さらに学びを深めてみましょう.

 個人情報を院外に持ち出した際,情報漏えいを引き起こす脅威(場面)にはどのようなものがあるか,代表的なものを紹介しておきます.

●車上荒らし,ひったくり

 車上荒らしは,まさに本事例にあたるものですが,車だけでなく,「自転車のカゴに入れておいたカバンが盗まれた,ひったくりに遭った」という事例もあります.車や自転車から離れる際は,必ず一緒に持ち運ぶことや,ひったくり防止のためにカバンの持ち方にも注意することが必要です.

●電車やタクシー,飲食店での置き忘れ

 電車の網棚やタクシーにカバンを置き忘れたまま下車・降車してしまい,個人情報が含まれていた媒体を紛失するケースがあります.また,帰宅途中に飲食店に立ち寄った際,カバンを置き忘れるケースもあります.特に,飲食店の場合は,アルコールが入ると置き忘れのリスクも高くなるので要注意です.カバンを手離さない,持ち物から目を離さないことが必要となります.

 以上のように,院外には様々な脅威が存在し,情報漏えいの危険性が高まります.これらの危険性の原点は,院外への個人情報の持ち出しであり,事故の発端であることを忘れてはいけません.

【事例の出典元】

  • 品川 佳満, 伊東 朋子, 橋本 勇人:看護師が注意すべき患者の個人情報取り扱い 「気づかない」から「ドキッ」、そして「あたりまえ」になるために(第5回) 院外への持ち出し:車上荒らしによる盗難,看護技術,66巻6号,669-671,2020.

【参考文献】

更新日:2022.9.1