CASE4(院外への無断持ち出し)

漏えいした情報】約100人分の患者の氏名,病名,治療内容など

【 漏えいまでの経緯】看護師が,担当患者の病名や治療内容などが記載された文書(入院患者のカルテや問診票など)をまとめたファイルを持ち帰り,一般の可燃ごみなどと一緒にゴミ袋に入れて廃棄した.看護師は,持ち出しを禁止されている書類と認識しながら自分で勉強するために日常的に持ち出していた.近隣住民から患者情報が書かれた文書が路上に散乱していると病院に連絡があった.

漏えい発覚後】看護師の処分も検討する.

学びのポイント(うっかりミスによる事故か,ルール違反による事故か

 患者の個人情報の漏えいが起きた場合,その起点となる事故原因は,大きく2つのタイプに分けることができます(品川 2017).

 “うっかり型”は,自らのミスなどにより発生した事故であり,「院内でのUSBメモリの紛失」や「FAXの誤送信」などが該当します.一方で,“意識型”は,刑法上の故意にあたる場合や民法上の悪意(知っていること)に基づく事故で,ルール違反の意識ある行為がきっかけとなって発生した「無断持ち出し」や「SNSへの書き込み」などが該当します.生じた結果(漏えいした情報)が同じならば,“意識型”のほうが責任は重いです.

 本事例は,持ち出しが禁止されている書類であることを認識しながらもルールに反し,患者の個人情報を持ち出しています.つまり,“意識型”の事故であり,「シュレッダーにかけるのを忘れて,そのまま廃棄してしまった」という単純なミスから起きた“うっかり型”の事故ではありません.

問題点と事故防止のためのポイント

読む前に,まずは自分で本事例の問題点と,どうしたら防げたか考えてみてください.

【問題点】

●ルールに反し,書類を院外に持ち出した

 事故が発生した原因は複数(ルールに反し書類を院外に持ち出した,持ち出した書類をそのまま廃棄した)ありますが,CASE3でも説明したように,事故の発端を防止することが最も重要であるため, 本事例の問題点は,「ルールに反し,書類を院外に持ち出した」ことにあります.

 医療機関において個人情報を持ち出した理由として,「仕事が終わらず,自宅で続きをするため」「学習目的のため」「研究の学会発表やその準備のため」が主なものであり,悪気のあるものはほとんどありません(品川 2014).本事例においても,自主学習のためという理由であり,悪気があるものではありませんが,いかなる理由であろうと病院のルールに反することは許されません.特に,日常的に持ち出していたということから,守るべきルールを軽視していたといわざるをえないでしょう.

 ルール違反が起きる背景には,業務量の多さといった職場環境などの問題もあり,決して本人だけを責めることができないケースもあります.そのため,このような事故が発生した場合には,ルール違反が起きた背景について,看護部全体で考えていくことも,今後の事故防止のためには必要となります.

【事故防止のためのポイント】

ルール(患者情報の持ち出し禁止)の厳守

患者情報を持ち出さなくてもよい職場環境作り

さらに学ぶ(漏えい事故になりやすい主な媒体

さらに学びを深めてみましょう.

 漏えい事故につながりやすい媒体を紹介します.事故につながりやすい媒体を知ることで,その媒体を取り扱う場面に遭遇したとき,「ドキッ」と感じられるようになってください. 

紙(書類)

 意外かもしれませんが,個人情報の取り扱い事故における媒体としては,紙が最も多いです(図-①)(日本ネットワークセキュリティ協会 2019).デジタル系の媒体のみに注意を払うのではなく,患者情報が記載された紙(書類)の取り扱いにも気をつけることが重要です.

USBメモリ

 デジタル系の媒体で最も事故につながりやすいのが,USBメモリです(図-②).USBメモリを見たら,真っ先に「取り扱いに注意!」と頭に思い浮べてください.

ポータブルHDD(ハードディスク)

 小型で持ち運びしやすいため,USBメモリと同様によく使われる媒体です(図-③).しかし,その分,紛失や盗難につながりやすいです.

ノートPC(パソコン)

 「院内に設置しているノートPCが盗難に遭った」「私物のノートPCを院内に持ち込み,研究などで患者情報を保存したまま持ち出し,紛失・盗難に遭った」という事故が起きています(図-④).業務用のノートPCには,セキュリティワイヤー(金属線でできた固定器具)を使う,私物PCは持ち込まない・患者情報を保存しない,といった防止策をとることが必要です.

●デジタルカメラ(SDカード

 院内では,デジタルカメラを保有・使用する診療科(たとえば皮膚科)があります(図-⑤).患部などを撮影した画像が保存された状態で,紛失したり,盗難に遭ったりした事故も発生しています.USBメモリ同様,保管場所や使う際の手順を決めることが必要です.


図 漏えい事故につながりやすい主な媒体

更新日:2022.9.1