【概要】看護師Aは,ある感染症疑いのある患者が入院するにあたり,別の看護師から引き継いだ電子カルテの一部の印刷物をスマートフォンで撮影し,翌日に勤務する看護師Bに注意喚起する趣旨の文面とともに,LINEで画像を送った(後にBは看護師Cに,Cは看護師Dに送っている).また,看護師Aは,当面帰宅できなくなることを伝えるために,親族にも画像を送った(その親族は,別の親族1人にも送信していた).
【処分】情報を漏えいした看護師Aは停職処分となり,BとCは減給処分となった.Dは上司への報告を怠ったため訓告,上司の看護部長と看護師長も不適正な指導監督により訓告処分となった.
SNSへの投稿に関する事例は,CASE7やCASE10でも紹介しましたが,今回の事例では,事故の発端となった「現場でのスマートフォンの利用」という点に着目してみたいと思います.
いまやスマートフォンは,ほとんどの人が持っているICT機器であり,通話やメッセージのやり取り,ウェブサイトの閲覧,SNSの更新,さらには仕事の連絡など,日常生活の必需品となっています.また,高解像度のカメラやGPSなどの様々なセンサーを搭載しているため,手軽に撮影でき,道案内もしてくれ,さらにはお財布代わりにもなります.ICTの進化に合わせ,多機能・高性能化し,その利便性は,高まるばかりです.
しかし,その利便性だけに目が向くと,セキュリティ面が疎かになります.まさに今回の事例は,セキュリティ面を考えず,スマートフォンを利用(カメラで撮影→SNSで送信)したことが招いた情報漏えいといえるでしょう.
読む前に,まずは自分で本事例の問題点と,どうしたら防げたか考えてみてください.
【問題点】
●カルテを撮影した
本事例では,印刷されたカルテを撮影していますが,スマートフォンを利用すれば電子カルテの画面も容易に撮影できてしまいます.また,カルテだけでなく,院内には,患者・家族,医療スタッフの個人情報を含むものが多く存在します.日常生活でやってしまうような”ちょっとメモ代わりに撮影”といった行為は,絶対にしてはいけません.
●SNS(LINE)で送った,転送した
「同僚だから」「身内だけだから」といった考えは間違であり,今回の行動は,まぎれもなく情報漏えいとなります.「一度送信した情報は,相手の端末に残る」「特定の人への送信といえど,公開したことと同じ」「ネット上に記録(保存)することは,持ち出すことと同じ」といった認識を持つべきです.
また,今回の事例は,悪意があったものではありませんが,その行動がどのような事態をもたらすか,最初に送信した看護師および受け取った看護師がイメージできていないことも問題といえるでしょう.
【事故防止のためのポイント】
●スマートフォンを安易に現場に持ち込まない
● 院内で撮影しない
● SNSやネット上に送信・保存しない
さらに学びを深めてみましょう.
私物のデバイス(情報端末や周辺機器)を職場に持ち込むと,私と公との境があいまいになるため,セキュリティに関するリスクが発生します.例えば,看護師の場合,看護研究を実施するにあたり,私物のノートPCやUSBメモリを職場に持ち込んだことがある人もいるのではないでしょうか.ここでは,私物デバイスの持ち込みに対するリスクを挙げておきます.
・情報漏えい
私物のデバイスに,職場の機密情報や個人情報を保存してしまうと,情報の持ち出し,さらには漏えいにつながるリスクが高まります.まさに今回の事例は,ここに当てはまります.
・コンピュータウイルスの侵入
持ち込んだPCやUSBメモリがコンピュータウイルスに感染していた場合,それを病院内のネットワークに接続したりPCに差し込むと,院内にウイルスを侵入させてしまうリスクがあります.
いまや,スマートフォンやノートパソコンは特別なものではなく,文房具の一つと言えるほど身近なものとなりました.しかし,それを安易に院内で利用すると思わぬ事態を招くことがあります.まずは,職場で決められたルールを把握し,守ることが必要です.また,ルールがない場合でも,利用した場合のリスクを考え,情報漏えいにつながるような行動は決してしないようにしましょう.
更新日:2024.7.4