CASE1(USBメモリの紛失)

紛失した情報十数人分の患者の氏名,年齢,病名など

【 紛失までの経緯看護師は薬剤や栄養物などの看護研究に使うデータを私物のUSBメモリに保存し,院内のパソコンに差し込んで作業した.数日後,保管場所にないことに気づいた.USBメモリは個人用レターケースに保管するが,今回そうしたかよく覚えておらず,捜したが見つからなかった.

【 紛失発覚後病院は患者や家族に電話で謝罪した.病院は再発防止のため,個人情報を保存する際,病院が管理する暗証番号つきUSBメモリを使うことにした.

学びのポイント(多発するUSBメモリの紛失)

 本事例は,医療機関で発生した個人情報の不適切な取り扱いのなかでも,頻度の高いUSBメモリの紛失事故です(品川 2018).USBメモリの紛失事故が多いのには,それなりに理由があります.本事例の問題点を考える前に,まず,USBメモリの特性や基本的な管理について整理しておきます.

 USBメモリは,「大容量のデータが保存できる」「大部分のパソコン(PC)にUSB端子があり,手軽に接続できる」「小型でどこにでも持ち運べる」というメリットがあります.そのため,多くの場面で活用でき,利用者も多いです.

 一方で,「小型でどこにでも持ち運べる」というメリットは,裏返せば「紛失しやすい」というデメリットを持っていることにもなり,これが,紛失事故につながる一番の理由です.

 つまり,そもそも“USBメモリは,紛失しやすいもの”であり,リスクが伴う媒体であるという認識をもつことが必要です.それゆえ,利用を容認するのであれば,組織(看護部や病棟)でルールを決め,看護師自身がそのルールを守っていくことが事故防止につながります.

 以下に,USBメモリの基本的な管理のポイントを挙げておきます.

•個人情報の保存は避ける

•使用後は,ただちに取り外す

•不用意に持ち歩かない

•鍵のかかる決まった保管場所で管理する

•院外に無断で持ち出さない

•パスワードによる保護を行う

問題点と事故防止のためのポイント

読む前に,まずは自分で本事例の問題点と,どうしたら防げたか考えてみてください

【問題点

●私物のUSBメモリを使用した

 医療機関のような秘匿性の高い情報を扱う組織において,私物の電子機器(ノートPCなど)や媒体(USBメモリなど)を安易に持ち込んではいけません.私物の場合,業務用の端末や媒体と比較してセキュリティ対策(たとえばパスワードをかけるなど)が甘くなりやすいです.また,私物は,結果的に個人情報の院外への持ち出しにもつながってしまいます.原則,私物のPCやUSBメモリは,持ち込まないようにすべきですが,業務上やむを得ず,持ち込む必要がある場合には,事前に許可を得るべきです.

●保管場所に戻すまでの手順を決めていなかった

 本事例では,パソコンに差し込んで利用した後から保管場所に戻すまでの行動があいまいになっています.

 たとえば,看護師の与薬などの業務においては,事故を起こさないために,組織レベルでのルール(複数人で薬品や数をチェックするなど)と個人(看護師)レベルでの注意点(患者情報の把握,患者への声かけ,業務への集中など)を決め,それに従って実施していると思います.

 USBメモリを使用するときも,考え方は同じです.本事例のような紛失を避けるためには,まず組織で適切な保管場所を決めたうえで,次に個人としてもミスが起きない手順を考え,ルーチンとして実施することが必要です.たとえば,①鍵のかかる保管場所を病棟で決める②持ち運ぶ際は,特定の保存用ケースに入れる③使用後はただちにPCから取り外し,保管場所に戻すまでほかの業務にかかわらない,などがあります.

事故防止のためのポイント】

「USBメモリ=紛失しやすい」という認識をもつ

私物の媒体や機器(USBメモリやPCなど)を無断で院内に持ち込まない

USBメモリを使う場合には,手順を決め,ルーチンとして実施する

さらに学ぶ(USBメモリの紛失を防ぐためのルーチン)

さらに学びを深めてみましょう.

 防止のためのポイントとして「USBメモリを使う場合には,手順を決め,ルーチンとして実施する」をあげました.

 筆者らも学外で講義をするときや,学会で発表する際には,資料をUSB メモリに保存して持ち運ぶことがあります.今回,筆者が実践している紛失防止のためのルーチンを紹介したいと思います.

 なお,あくまで紛失防止という点から紹介するもので,個人情報を持ち出すことを前提にしているわけではないので,勘違いしないようにしてください.

①USBメモリは,つねに決まった場所(保管場所)に保管する(図 ①).

②持ち運ぶ際は,カバンの決まったファスナー付きの外側ポケットに入れる(図 ②).

(そのポケットにはUSBメモリ以外は入れない)

③使った場所から離れる前や,乗り物から降りる前に,外側からカバンのポケットを触り,USBメモリがあるか確認する(図 ③).

(カバンの外側ポケットに入れるのは,このため)

 もちろん,筆者が行っている方法が最善とは言えないかもしれませんが,要は,以下の2点を念頭に,自分なりの手順を考え,ルーチンとして実践しています.

・場所(置き場所,保管場所,持ち運ぶカバンのポケット)を決める

・確認がしやすい環境をつくり,決まったタイミングで確認を行う

 見た目(色,形,大きさなど)が異なるUSBメモリを準備し,持ち運ぶ情報の重要度により使い分けるなどといった工夫も保護意識を高めることにもつながります.この機会に,自分なりにミスが起きないUSBメモリの利用手順を考えてみてください.

【事例の出典元】

  • 品川 佳満, 伊東 朋子, 橋本 勇人:看護師が注意すべき患者の個人情報取り扱い 「気づかない」から「ドキッ」、そして「あたりまえ」になるために(第3回) 院内でのUSBメモリの紛失,看護技術,66巻3号,309-311,2020.

  • 品川 佳満, 伊東 朋子, 橋本 勇人:看護師が注意すべき患者の個人情報取り扱い 「気づかない」から「ドキッ」、そして「あたりまえ」になるために(第4回) FAXの誤送信,看護技術,66巻4号,413-415,2020.

参考文献

  • 品川佳満,橋本勇人:あなたのリテラシーは大丈夫!?看護師が押さえておきたい患者の個人情報の取り扱い(Part 1)事例から考える患者の個人情報取り扱いのポイントと注意点,看護技術,64(11):1082-1086,2018.

更新日:2022.9.1